「お腹の肉が気になる」「二の腕の肉が気になる」といってその部位ばかりの運動をしていませんか?実は、その部分だけ脂肪が燃えることはありません。厳密には、引き締め効果によって痩せて見えるようになることはあります。これを部分痩せトレーニングと紹介されていることが多い印象です。全く効果がないということはありませんが、脂肪を燃やすという意味での「部分痩せ」は起こりません。今回は生理学的観点から、その意味での部分痩せが起こらない理由を解説したいと思います。
脂肪細胞について
脂肪細胞とは、中性脂肪の貯蔵庫です。エネルギーを中性脂肪として蓄える細胞で、以下の点が特徴です。
- エネルギー貯蔵:余分なエネルギーを中性脂肪として蓄え、必要に応じて分解されエネルギーとして利用されます。
- 個体差と分布:個人差があり、脂肪細胞の数は部位ごとに生まれた時や成長過程でほぼ決定され、成人期以降は大きな変動は見られません。腕がつきやすい、お腹につきやすい、背中につきやすいなど、人によって悩みの部位が変わるのもこの理由です。
- サイズの変化:体重の増減は主に脂肪細胞のサイズの変化(肥大・縮小)によって起こり、一般的には脂肪細胞の数自体は大きく変わりません。ただし、極端な肥満などでは新たな脂肪細胞が生成されることもあります。
つまり、生まれつき人によって部位ごとに分布する脂肪細胞の個数が違い、その数は基本的には変わりません。脂肪細胞のサイズの変化(肥大・縮小)によって見た目も太ったり痩せたりします。脂肪細胞が太ると太るということです。
部分痩せが起こらないメカニズム
- 全身性の脂肪動員
脂肪がエネルギーとして利用される際、体は全体的なエネルギーバランスに応じて脂肪細胞から中性脂肪を分解します。運動やカロリー制限による脂肪燃焼は、特定の部位だけでなく、全身の脂肪細胞から同時に行われるため、ある部分だけが選択的に減少することは生理学的に難しいのです。 - 局所的な代謝変化の限界
ある部位を集中的に動かすことで、その部位の筋肉のエネルギー需要は高まりますが、その部分の脂肪細胞が特にリポリシス(脂肪分解)を促進されるという証拠は乏しいです。つまり、局所的な運動がその部位の脂肪細胞に特有の代謝変化をもたらすわけではなく、全身の代謝調整として働くため、局所のみでの脂肪減少は期待できません。 - ホルモンと血流の影響
脂肪細胞はホルモン(アドレナリン、インスリンなど)や血流の影響を強く受けます。運動や食事制限により、全身でホルモンレベルが変動するため、脂肪動員は広範囲に及び、特定の部位だけをターゲットにすることはできません。また、血流が豊富な部位では脂肪動員が促進される可能性はありますが、全体のエネルギーバランスが変化しない限り、局所的な効果には限界があります。
研究と実践の見解
- 科学的エビデンス
多くの研究では、局所運動によってその部位の脂肪が特異的に減少するというエビデンスは十分に確認されていません。運動は筋肉を鍛える効果はあるものの、脂肪燃焼は全身性の反応として起こるため、「腹筋運動をすればお腹の脂肪が減る」といった単純なメカニズムは存在しないとされています。 - 実践的アプローチ
脂肪減少を目指す場合は、全体的なカロリー制限や有酸素運動、さらには全身をバランス良く鍛えるトレーニングが推奨されます。これにより、全身の脂肪細胞から効率的にエネルギーが動員され、結果として気になる部位の脂肪も減少しやすくなります。
部分痩せする唯一の方法が美容医療
美容医療における脂肪吸引は、物理的に脂肪細胞を除去する方法で、脂肪冷却(クールスカルプティング)では低温によって脂肪細胞を破壊し、体内で自然に除去されるため、いずれも治療部位の脂肪細胞の個数を減らす効果があります。リバウンドのリスクも少ないのがポイントです。これにより、従来の運動や食事療法とは異なり、特定の部位に直接アプローチして「部分痩せ」が実現できると考えられています。ただし、全身の体重管理も重要で、治療後ももちろん生活習慣の見直しが推奨されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?一般的に表現されている「部分痩せ」という言葉は、脂肪を燃焼させるという意味ではなく、引き締め効果によって部分的に痩せて見えることを指すことが多いです。YouTubeをはじめとしたSNSには、たくさんの部分痩せトレーニングがありますが、ほとんどの運動は脂肪の燃焼をするほどの強度はありません。とはいえ、意味がないわけではなく、筋肉の使用頻度を増やし適度な収縮を保つことは重要です。引き締まった綺麗なライン作りは、脂肪がなくなるだけでは起こりません。なので、特定部位を狙った運動を継続しつつ、脂肪燃焼できる運動も行うことが重要です。運動は目的をもって行うことがとても大切なので、基礎代謝を増やす運動、引き締め効果を狙う運動、脂肪を燃焼させる運動をカテゴリにわけた記事がありますので「こちらの記事」もぜひご覧ください。